2017年8月12日土曜日

知里真志保


アイヌ学者知里真志保の,
「分類アイヌ語辞典植物篇」(1953)を読むとき、
ひどく懐かしさがこみ上げてくる。
かつての蝦夷の人々の、
葉や實、茎、根を煮て食い、樹皮を乾かし薬にする暮らしに。
時に魔よけなどの呪術的な考え方に。
蝦夷の人々の草や木との濃密な関係は、
当然のように、このわたくしも、もっている。

身の回りの草や樹木を見渡すとき、
そこにどんな名があり、働きがあるか、
どこまで知っているのだろうか。
ほとんど知らないのだ。
草や樹木の名を知り、働きを知ってから、
死なねばならない。

 ペロコムニ(ミズナラ)は素性のよい樹で、
 三又になっていると、山の神の木、として大切にされた。
 薪にしてはいけなかった。
 實は煮てつぶして、餅にした。

 樺太で、イソカルシ(マイタケ)を採るときは、
 必ず、槍を構えて、突く真似をしてから、採る。
 熊を獲るときと同じく。

 ラルマニ(イチイ)の實は、
 肺や心臓が弱い人々へさかんに勧めて食べさせた。
 樹皮は赤く染める染料として煮た。
 内皮は乾燥させ保存し、下痢止めの薬にした。

 フプ(トドマツ)の枝は、
 悪い夢を見た朝に、その枝で体を払う、儀式(ヤエピル)で使った。
 清めの悪魔払いだ。

 ウクルキナ(ギボウシ)の葉は、
 細かく切り刻んで、米や粥に炊き込んだ。
 鍋で煮て、カエデやシラカバの樹液を醗酵させたものを混ぜ、
 濁り酒を造った。

 コムニ(カシワ)の實は保存し、
 冬になると、白い中實を豆と一緒に煮て団子にする。
 ニセウラタッケというどんぐり料理のご馳走だった。

 トペニ(カエデ)は早春の樹液を飲んだり、樹液で飯を炊いた。
 煮詰めて飴にした。サンザシやキハダの果汁を加え、醗酵させた。

 なにより、蝦夷のひとびとにはチキサニ(春楡)が親しかった。
 火を起こすチキサニは、母なる女神だった。
 チキザニからは善神だけが生まれた。











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