2016年11月8日火曜日

石橋辰之助「山暦」


昭和26年刊の畦地梅太郎の木版画で装丁された石橋辰之助の句集「山暦」を読む。
わたくしは、詩では、四季派の田中冬二の素朴な田舎詠が好きだが、
石橋の句は山行を場とする自然詠。田中と重なるものも感じた。
しかも明瞭で透徹した山々への視点に、優れた詩性も感じることができた。

  穂高岳真つ向かふにして岩魚釣

は遠近が効いたよい句だ。
信州に住めば、雲の上に北アルプスがあることに驚くだろう。
山々は常に人に迫ってくるものなのだ。

  光(かげ)の玉樹氷に隕ちつ地に弾く

は冬山でしか知ることができない。
師の「馬酔木」の水原秋桜子は、一時、山々の句を読んだが、次第に都会詠に沈んだ。
「山岳俳句」と呼ばれるが、
山岳への優位性におぼれていないことは書かねばならない。
単なる山男、ではないと。
ホトトギス時代からの写生ぶりが丁寧であることに驚くだろう。
ものの本質を丁寧に見詰める、という虚子の伝統をひたすらに守っている。

  諏訪の町湖(うみ)もろともに凍てにけり

晴れていたとしても、真冬の諏訪湖畔の町はどうしやうもないほど氷ったままだ。
氷点を越えない日が続くこともあるのだ。
高ボッチの頂に立てば、遠く富士山を見張晴るかしつつも、鉢底の鉛のような氷の町が見える。

  落葉松に雪解けの水せせらげり
  落つる日の嶺をはしれる樹氷かな
  白樺の葉濡れの月に径を得ぬ
  雪けむり立てど北斗はかかはらず
  融氷の音か日輪とどまれる

アニミズムの深みを石橋に見た。
厳しい自然が何かを目覚めさせるのだ。
サヨクにも突っ込み、前衛にも取り組んだが、
四〇歳で死んだ。












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